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社会を見る眼
 ほんとうの勇気
  第39回 <1999年5月>

NHKの朝のドラマ「すずらん」の一場面である(5月27日放映)。
 主人公の萌(もえ)という女性が、幼馴染(おさななじみ)だった勇介を愛するようになる。駅に捨てられていた萌は、駅長の子として育てられた。勇介は、この町の炭鉱会社の独裁社長の息子である。

 この二人の恋愛に対して、萌の父は「子供の人生の前では親は無力」という。勇介の父は、「そんな考えが町に迷惑をかけることになるぞ」と威(おど)す。町への工場誘致を中止させ、萌の勤める宿屋に客を泊まらせない。資本家の理不尽ないやがらせで、町中は大迷惑を蒙(こうむ)る。萌は悩み果てて父に相談する。

 「私のせいで、みんなに迷惑をかけている。どうしたらいいの。わからない」

 「それなら別れるか。――お前は自分の幸せだけを考えればいい。人を好きになるということは、誰かを傷つけることだってある。迷惑だってかける。それがつらいのなら、人なんか好きになるな」


 他人(ひと)のためのわが人生ではない。人間(ひと)は本来、自己は自己のために生きるものである。しかも、自と他の関係の中で生きるのである。だから、そこに誰かを傷つけたり迷惑をかけずに生きられない。生きるとは矛盾なのだ。

 ふつう、自分が自分のために生きていることが、誰かを傷つけたり、迷惑をかけているなんて思ってもみない。

 ひとを愛することが、町のみんなの迷惑になるという理不尽なことは、あの社長ひとりがやっていることだ。萌の父は、その理不尽と闘(たたか)う勇気をもてと娘を励ます。しかも、この闘う勇気とは、誰かを傷つけ、迷惑をかけたりすることがあるという現実を逃げないで、自分の愛の責任として受けとめる勇気をもてと激励しているのである。この、自分に忠実に生きるとは、知らぬ間に傷つけてしまっている誰かの痛みまでを受けとめる真の勇気が要請されているのである。

 萌ちゃん。これからこの勇気をもってどう生きるのだろうか。楽しみである。
(邦)



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