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 素朴な自我の声
狐野 秀存(大谷専修学院長) サンガ第93号 <2008年5月>

イメージ 玄関を開けると、息子の泣き声がした。あてにしていたゲーム機がもらえなくなったらしい。母親にまとわりついて、せがんでいる。

 そのうち、床に寝そべって足をばたばたさせてくやしがりだした。「中学生にもなって、それじゃネンネと同じだ」とからかい半分に言いながら、近頃こういう子どもの姿を見かけなくなったと思った。

 かつては、デパートのおもちゃ売り場のあちこちから、欲しいものがあるのに買ってもらえず、泣き叫んでいる子どもの声が聞こえた。その側でお母さんは知らん振りして買い物をしている。そういう光景をよく目にした。

 子どもはわがままだ。自分の思い通りにならないと、泣き叫び、地面を転げまわってでも自我を通そうとする。だが大人はそれを許さない。昔の騒々しい町の風景はそこから生まれた。

 今は静かだ。デパートでも、街角でも、乗り物の中でも、そしてひょっとすると家の中でも。物の豊かさのなかで、子どもが泣きわめく前に大人はそれを買い与え、静かにさせることができる。

 欲しい、けれど思い通りにならない。あとは泣き叫ぶしかない。そうした素朴な自我の声を反芻しながら、人は少しずつ自分というものの輪郭をはっきりさせていく


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