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 はるかなるものへの憧れ
狐野 秀存(大谷専修学院長) サンガ第87号 <2007年5月>

イメージ 気がついてみると、空を見上げることが少なくなった。

 山村暮鳥の「おうい雲よ」を口ずさんでみる。

  おうい雲よ
  ゆうゆうと
  馬鹿にのんきさうぢやないか
  どこまでゆくんだ
  ずつと磐城平の方までゆくんか

 竹内敏晴先生の説によると、真っ直ぐに空を仰ぐことができるのは人間だけであるそうだ(『ことばが劈かれるとき』)。

 いつのころか、人間の祖先が2本の足でこの大地の上に起ちあがり、直立二足歩行をはじめた時に、人間は他の四つ足の動物たちとは決定的にことなる道を選んだのだ。大地に起った人間は、その骨格として、顔を上げて空を仰ぐことができるようになった。その時から人類の知性が飛躍的に発達した。

 しっかりと大地に足を踏みしめて、どこまでもひろがっていく大空を見つめる。あの空の彼方には何があるのだろう。夜空の星々の光を受けて、自分がいかに小さい存在であるのかを知る。

 頭をめぐらせば、前後、左右を自由に見ることができる。この大地の上にいろいろなものがみな共にいる。今まで見えていなかったものが見え、知らなかったことを知る。

 この100年は、それまで人類が獲得した全知識を凌駕する知の時代だったと言える。しかし今、人間知性のはじめにあった「はるかなるものへの憧れ」が急速に萎んでいないだろうか。


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