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 心中暗然
狐野 秀存(大谷専修学院指導主事) サンガ第81号 <2006年5月>

イメージ 「景気はよくなったと思いますか」。列車の中で隣り合わせた方が声をかけてきた。世事にうといので、適当に相づちをうちながら、あとはよもやま話で、旅のひとときを楽しんだ。

 東京での長い間の勤めを終え、今は北関東で年金生活を送っていると言う。ゆったりとした語り口の合間に、ふと車窓の外をながめる眼差しが妙にこころに残った。

 「心中暗然」。1932年、憲政の神さまと呼ばれた尾崎行雄が、進行する「満州事変」への感想を述べた言葉である。エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』を翻訳した日高六郎氏が紹介している。

 行き詰っていた日本の現状を打破するために、日本軍は武力行使にふみきった。緒戦の成果にみなが昂揚している中で、その後につづく十五年戦争を予見したのか、尾崎行雄は「心中暗然」とした。歴史にそむいている、と。

 今年89歳になる日高氏は「尾崎と同じように、いま日本のなかで『心中暗然』を感じている人は少なくないのではなかろうか」と記す。

 今のところは何とかやっていけるだろう。しかしこの先どうなっていくのか。列車の窓からはるか遠くをながめる同乗の老人の横顔に未来を見通すことができない悲しみを感じたのは、感傷的すぎるだろうか。

 未来の人たちのために、歴史を見る知恵をみがかなければならない。


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