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 デラシネ(根こそぎにされたもの)
狐野 秀存(大谷専修学院指導主事) サンガ第79号 <2006年1月>

イメージ 目くじらをたてることでもないのだろうが、「平成の大合併」と称して、なじみのある土地の名が消えていく。地名の変更は今にはじまったことではない。

 旋盤工をしておられた作家の小関智弘さんを大田区のお宅にうかがったとき、「ここは昔、武蔵野国荏原郡不入斗村と言ったんです。祖父は鳥屋で、父は魚屋をしていました。私はその息子です」と、目を細めておっしゃったことが印象に残っている。

 今は大森と蒲田のひと文字ずつとって、「大田区」という行政の書類上の名前になったが、小関さんの身体の中には、親代々その土地で暮らしてきた生活の形が古い地名とひとつになって息づいている。

 ふるさとの名を守ろうとする人々もいるが、日本全国がなだれをうったように昔からの地名を捨てて、新しい名前に乗り換えていこうとしている。そこには土地と自分とのアイデンティティを喪失した今日の私どもの精神状況が如実にあわられているように思える。

 かつて先生から「デラシネ(根こそぎにされたもの)」という言葉を教わった。現代社会はだれも皆が流民化し、生活そのものがデラシネとならざるを得ない社会なのかも知れない。

 人はふるさとを持たなければ生きていけない。その心のふるさとが見えにくい時代である。だからこそ「往生浄土」という言葉が、今真剣にもとめられなければならない。


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