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老いるについて
足の爪をつむこと
浜田クリニック 浜田晋 第87回 <2007年5月>

 私は生来不精だから爪をつむことがとてもめんどうくさい。しかし医者をやっている以上、手の爪を伸ばしていることは許されまい。もしもそんな先生がいたら、もうそれだけで患者さんは診てもらってはならない。いわんや爪の間に黒いごみのたまっている医者などは最悪! だから私は週1回必ず月曜日には丹念に手の爪をつむことにしている。指先の清潔さにはいつも心がけている。

 ところが足の爪となると事情ががらりとかわる。めったに見ることがないからほったらかしにしてあることがしばしばである。靴下に穴があいたり、シーツがぼろぼろになってくるとやっと気がついて見てみると、びっくりする。まるで猛獣のごとく、なかにはとなりの指をつっきって出血していたりする。何故か痛みがない。

 さて、そこからが問題。

 新聞紙をしいて爪切りばさみでつもうとするが、腰が痛くてまがらず目的の爪まで到達しない。やっと爪まで達したとしても手がふるえてとても切るまでにいかない。半分くらいやっと切ったり、となりの指の肉を切ったり、まさに悪戦苦闘である。若いころはどうやって切っていたのであろうか。少なくともこんな苦痛は味わったことはない。妻にどうやっているのかと聞いたら「私は水虫だから看護婦さんにちゃんと切ってもらえるから……」と他人事のように答えた。妻に「切ってくれ!」と言うのもなんとなくしゃくだ。たかが足の爪くらい……これから老いるにつれ何事も自分で始末したいというやせ我慢であろうか。

 そんな時「老い」はじわっと心にしみる。ごわごわとした新聞紙の上で背をまるめて一人の老人が足の爪をつんでる図を想像するだけ、ちょっとあわれでもある。

 そういえば義母が病院に入院した時のことが浮かんだ。まずナースが2〜3人入って来て、足の爪をつむところからはじまった。たしかにひどく伸びていて足の先が血だらけになっていた。あーこんなところから看護は始まるのか! 家族が今までその老人の全身をどう看ていたのかが、明らかにできる象徴の一つでもあるのだろう。

 余談になるが、1本だけ爪の水虫ができているのを最近発見した。これはどうにもならない。コンクリートの塊のようになっている。さあいよいよ医者にいって看護婦さんに爪を切ってもらえる時期到来!

 これも疾病利得というのであろうか。


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