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老いるについて
 老人と住居(3)
浜田クリニック 浜田晋 第54回 <2001年11月>

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 最近私の身内、83歳の女性が新しいマンションに転居した。単身である。親戚誰しも反対した。私ももちろん反対である。理由をきいてみると、30年住んでいた今までのマンションのすぐ南側に巨大なマンションが出来て、「日もあたらないし、いつも見られているような気がする」という。ちょっと離れたところに新しいマンションが出来て「そこに移りたい」と言うのである。

 年をとってからの転居の大変さは生死にかかわる。ところが彼女は決行した。1ヵ月がたって、さぞ疲れたころと思っていたところ、電話で元気な声がかえってきた。「すばらしい!新しいマンションは便利に出来ているのよ。快適。なんの不便もない。元気よ!」と笑っている。

 一般的に「古木(こぼく)は移さず」とか「老人にマンションは似合わない」とか言うものではないな、と私は恥じた。

 冷暖房ひとつとってみても、今年のような猛暑でも我が家は実に快適である。全館冷暖房で動力電気なので月1万円前後の電気代ですむ。一週間位の旅行では、電気をきらずそのままにしておいた方が経済的である。おかげで私は大した夏バテもせずにすんだ。ボタン一つ押すだけで、風呂がわいて、自然にとまる。

 ただ、快適さのみへの追求が人の暮らしでもなかろう。

 昔読んだ瀬戸内晴海(寂聴)の「けものの匂い」という短編がある。「自分には家にめぐまれない運命というものがあって放浪の星のもとに生まれたせいであろうか……新しい家に移って半年もたたないうちに、もう私は、背中を強い風で押されるような気持ちになり、落ち着かなくなる。『家』を放れた時の開放感と自由さが忘れられない。 ……」と書く。

 しかし一方で、京の鴨川のモダンな石の橋の下に、一人の老人がこりにこってつくった棲家(すみか)を見て驚嘆する。そこには箪笥・長持・道具箱・テーブル・籐椅子が一つ一つ丹念にふきこまれきちんと整頓されている。その「家」の真ん中にどっかと腰をおろし、長い煙管きせるで悠然と煙草をすっていたという。

 今日、ホームレスの対策に東京都は手を焼いているが、暮らしのありようもさまざまであってよいのではなかろうか。

 昔は門によく「寓(ぐう)」(かりずまい)という字を見たが、いつの頃からか消えた。


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