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老いるについて
 年寄りの引っ越し「古木(こぼく)は移さず」
 という言葉を聞いたことがある。
浜田クリニック 浜田晋 第51回 <2001年5月>

 ところがである。平成3年頃、うちの妻が突然「引っ越したい」と言い出した。「なぜ?」と聞くと「マンションで死にたくない!」と言う。たしかにその頃住んでいたマンションは、玄関を入るとすぐ90度に廊下が曲がっていて、お棺(かん)が入らない。そこへの入居時大きな家具が入らず、外からクレーンで吊り上げて入れた。だからお棺も宙づりにされることとなろう。あまりいい気持ちはしない。

 さて我が家。土地を探して家を建て、平成5年5月現住所に引っ越した。72歳と71歳の男女がよくもまあ引っ越せたものだ。引っ越しで大変なことは、古い家の不要のものを捨てることである。ところが、要(い)るものと要らないものを選別することが実に難しい。よくもまあこんなに不要品の中で生きていたと思うくらい要らないものが出てくる。一時にマンションのごみ捨て場に捨てるわけにもいかない。「捨てる」だけで約1年を要した。私の妻は幸いにして細菌学の分類が仕事であるから、なんとかやり遂げた。私の仕事はすでに小さくなって着られない洋服の類(たぐい)を捨てるだけ。それでも大変だった。

 そして新しい家は道が狭く、大きなトラックは入らない。小さなダットサンのような車で、善人の赤帽さんがちょびちょび約1年かかって荷物を運んでくれた。約2年にしてこの難事業は終わった。力とお金と神のめぐみがあったせいであろう。

 よく生きて来たものである。

 政府はこのたび国会に「高齢者の居住の安全確保に関する法律案」なるものを提出した。この法案によれば、国が拠出する基金で、国土交通省が管轄する財団法人、高齢者居住支援センターを設立する由である。その中に年をとって家賃が払えなくなった人に半年を限度に(高齢者から保証金をとって)家賃を払ってくれるとある。半年たったらどうなるか?(死ねばいいが……)その後の老人の住居は保障されていない。関心のおありの方はその法案をよくお読みください。それは決してお年寄りのためのものではなかろう。

(つづく)


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