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老いるについて
 老親を看とること(2)
浜田クリニック 浜田晋 第40回 <1999年7月>

 親と子の間には長い歴史がある。それぞれの歴史である。だから一般的に、かくあるべしというお手本はない。
 ある中年の女性が来て、はき捨てるように言った。

 「母が呆(ぼ)けたんです。自分勝手に生きてきて、私らあの母から母親らしいこと何もしてもろうてません。いまさら呆けたからって、『病気』だからって、あんな母親を看みる気持ちにはなれません。どこか病院に放りこんでください」と言った。

 介護といえども、家族が看るときは、そんな個別な関係性の中で考えねばならない。一般的に論じてみてもむなしい。

 54歳の会社員の男性が、相談に来た。「80歳になる母親が呆けたから、入院させてほしい」という訴えだった。

 医療の立場からすると、その母親を診察したり検査したりして、入院の適応になるかどうかを判断することとなる。狭義の福祉の立場からすると、「入院」を求めてきたのだから、いくつかの病院を紹介して済ますこともできよう。

 私は、この男性に聞いた。

 「なぜあなたは、お母さんを入院させようと思うようになったのですか」と。

 しばらく考えこんでいた彼は、せきを切ったように話はじめた。

 「実は私の会社がつぶれそうなんです。社長から先日、『お前のような高給取りは、辞めてもらうことになる…』と言われたんです。それから私は夜も眠れないし、ものも喉を通らなくなりました。家内と2人きりの生活で、貯(たくわ)えもなく、これから先どうやって暮らしていこうか。病弱な家内に先立たれたら、私自身の老後はどうなるのか…。そのうち、ちょっとでも母がおかしなことを言ったりやったりすると、頭に血がのぼって…。こんなことわが家の恥だから、誰に相談することもできず…。ここ2〜3カ月というもの、ほとんど寝てないんです。私自身がノイローゼなのかもしれませんね。とりあえず母だけでもお願いします」

「ところで、あなたの奥さんは入院のことをどう思っておられますか」と聞いてみると…。

 「妻は無口な女で、あまり話をしたことはないんですが、母とも折り合いが悪くて…。私が戦地に行っているころ、よくある話で、私の父がさんざん嫁いびりをして死んだんですが、そのとき私の母が少しも嫁をかばってやらなかったらしく、口には出しませんが、母をとても憎んでいるようです。

 それに妻はもともと病弱で、いま更年期障害というのでしょうか、体調がすぐれず寝たり起きたり…。ところが母ときたら、呆けているくせに、『私なんざあ、お産のとき以外、寝たことない』なんて嫌がらせを言う。呆けは呆けらしくしてればいいのに…」(つづく)


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