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老いるについて
 夜眠れないこと(2)
浜田クリニック 浜田晋 第24回 <1996年11月>

 明治42年12月生まれの男性、私の診療所に通い出して10数年がたつ。主訴は不眠である。いつも自転車で通ってくる。足が悪くて歩くのはやっと。自転車はスイスイである。町内で最高齢だという。

 「友だちも顔見知りもみんな亡くなってしまいました。なんともさみしいことです。町内で『今日わ』と声をかけても、『ハア? 誰?』とみんな不思議そうな顔されますよ。ここへ来てお話するだけです…」という。妻(83歳)と2人で、マンションの7階に住む。

 「生きるということは大変なことです。老い、体の不自由、あちこち部品がこわれてくる。いたむ。死ぬまで大変ですよ。でもなんとか生きておられるのは、このお薬のせいです。お薬がないともう地獄です。『睡眠葉は体に毒だ、やめよ』と勝手なことを言う人がいますが、他人だからそんなこと言えるんですよ。でも不思議なもんですねえ。こんなちつぼけなお薬を二つ飲むてえと、こんな大きな身体が朝までぐっすりですからねえ…ありがたいことです。こうやつて2週間に1回、来させていただいて先生のお顔を見て、お薬をいただくと、安心するんですよ…アーア…」

 「としをとると呆けてくるから、楽になるんだろうと思っていたが、まちがいでした。ちょっと身体を動かすだけでも大変ですよ。部品がどんどんいかれてくるんだから、それを動かすのが大変。とぼとぼ歩いでいるようだけど、本人は必死ですよ。ただそれだけのことで一生懸命ですよ。だけどやっぱり死にたくはないんです。これも人間の業(ごう)なんでしょうねえ」

 「宗教だってできる人とできない人がいますよ。気持ちに余裕がないとそれどころじゃあない。仮りにこのお薬がもらえないとなると仏さんどころじゃあないですよ。眠れるから生きているんです」

 「でもお薬だってこうやって先生のおすがたを思いうかべて安心して飲むのと、おっかなびっくり飲むのとじゃあ随分ちがいますよ…なによりも、年寄りは安心がほしいんですね」

 「この前ひどい目にあいました。病院へ行ったら新しいいい機械が入ったから〃検査する〃と言われて…ドームのような中に入つて…トントン…トントン…と約30分、気持ち悪い思いをしました。先生が『あなたの頭の中は巣だらけ…』と言いましたよ。…でもそう言われたって…私はどうしようもありません。その先生もどうしょうもないんでしょう。不安になるばかりです」と。


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