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老いるについて
 街が消える ひとが消える
浜田クリニック 浜田晋 第10回 <1994年7月>

 神田神保町からまた美容院が消えたという記事が五月八日の「朝日新間」にのっていた。「お客さまヘ、47年のあいだかわいがっていただきました。閉店いたします。ありがとうございました」と。神田の美容師会には、60年前後には約60店が加入していたのに、現在では30店を割りこんだという。

 47年か−私のクリニックは今年で20年。いろいろな思いがこのはり紙にはこめられていよう。はり紙を書くことならいつも引き受けてくれた筆達者の夫(88歳)が、なぜかこの時は書いてくれなかったという。仕方なしに田代茂子(66歳)−ずい分ととしが離れているなあ、、、どうでもいいか−−がマジックで書いたもの。「寂しさなんてものは通り越していやだなあ−ていう気持、分かる?」と語っている。

 東京は街が消えていく。もう人間が住めなくなってきた。したがって商売も成り立たない。50年も100年も続いてきた店−町医者も例外でない−が消えていく。ひとが消える。

 私が20年前開業した時、部会長だったI先生が75歳で亡くなられ廃院となり、いまは中華料理店になっている。N先生もM先生もF先生もI先生もT先生も、もう高齢、亡くなられたらあとつぎはいない。私だって同じ運命にある。「地域医療」の旗をあげ、一時はその名を日本全国にとどろかせた(?)私だが、死ねば廃院−約1000名のおなじみの患者さんはどこへ行くのだろうか。そんなこと知っちやあいないと思ってもみるが、平将門のごとく影武者でもたてようかという思いがある。

 この連休、仕事で上野の裏町をあるいてみた。駅周辺は雑踏である。ところが一歩裏町に入ると(浜田クリニックのある場所)、もうまるでゴーストタウンである。その落差が現代なのであろう。

 街はひっそりと人の気配がない。シーンと静まりかえっている。

 茫然と、しばらく歩いていたら、ある寺にっきあたった。私はうっとりと寺を眺めていた。「この寺にはお坊さんがいるのであろうか。どんな気持でこの街の中で生きておられるのだろうか、、、。よっぽど入ってみようかと思ったが、やめた。まだお若いエリートのお坊さんが出てこられて、雄弁に語られちゃあかなわないから。

〈浜田晋著「心をたがやす」岩波書店刊(平成6年5月)をご参考くだざい〉


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