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老いるについて
 地域医療に旗をかかげて
浜田クリニック 浜田晋 第6回 <1993年11月>

 約8カ月間、老人問題についてNHKの密着取材を受けた。毎日のことで、わずらわしくもあったが、学ぶことも少なくなかった。

 それにしても、これまで再三のテレビの取材をすべて断り続けた私が、今度うけ入れたのには理由がある。

 第一は私の好きな町・上野の地が、バブルのせいで音をたてて破壊され、人々が追われ、その文化が消されていったこと。そしてバブル崩壊とともにあちこちに大きな空き地が残され「死地」となってしまったこと。そしてまた、「地域医療」の旗をかかげ、この地で開業して20年、私自身がこの「地域崩壊」になんの力にもなり得なかったという無力感-これらをどうしても映像に残しておかねばならないと思ったからである。

 追われていった人々の思いや、もはや姿をかえてしまったこの地に今なおへばりついて生き続けている人々(老年人口は約20〜30%)の思いを、「社会」に訴えたかった。これでいいのか?わが国は、、、と。

 この私の意向がどれだけ映像化されたかは10月14日夜(プライム10)を待つしかない。

 ここでこぼれ話をひとつ。

 ある痴呆老人が、墨田川の花火の夜、行方不明になった。たまたま密着取材していた老人夫婦であったので、若いディレクターとカメラマンは必死になってその痴呆老人を追った。

 私はどうせ1日か2日ででてくるだろうとたかをくくっていたが、そうはいかなかった。1週間たっても2週間たっても、老人は現れなかった。世話女房の妻の不安はつのった。2人の取材者は、ほとんど毎日つきそい、妻を励まし、いろいろと力になった。

 近所の人々も、入れかわりたちかわり、声をかけていたという(山の手ではありえないこと)。中には「あんた、もう覚悟しておいた方がいいわよ。3カ月目に白骨で出て来た人だっているよ」と、ひどいことまでいう奴も板という。

 私は、人が消えるともう発見できないという状況こそが東京なんだ、「これが大東京の現実なんだ」というシナリオを頭にえがいた。

 ところが、この2人は「いやそれでは駄目だ」という。「話にならないか」と聞くと、彼はこう答えた。「話なんかどうでもよい。あの奥さんがかわいそうだ」と。私は胸をうたれた。

 そして約40日後、老人はある病院で発見されたのである。近所の人々は喜び、気丈な妻も泣いた。2人の取材班の執念でもあったのだろうか


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