広報紙『サンガ』
TOP > 広報紙『サンガ』 > バックナンバー > お茶の間仏法味
バックナンバー
お茶の間仏法味

 逃げないで、怖がらないで
和田 恭子(岐阜県・照明寺) サンガ第82号 <2006年7月>
 
イメージ 「おばあちゃん!おねえちゃんがたたいた!」。3歳になる孫が半べそをかきながら訴える。「ちがうよ、悪いのはひーくんだから!」と、5歳の姉も必死になって自分を主張する。今日も朝から始まった。

 我が家は8人家族。満90歳を迎えた母を筆頭に、老いを感じ始めた私たち夫婦。子育てに日々悪戦苦闘中の若夫婦。そしていのちそのまま弾けているような3人の幼い孫たち。自分のことばかり言っていると、すぐぶつかり合う。私はちゃんとやっている、間違っていないというところに立つと、周りが見えなくなり、家族のそれぞれの言葉が聞こえなくなる。

 6年前、4人娘の次女に婿を迎えた。元気一杯の彼は何事にも積極的に関わろうとした。これが大切だと判断すると、周りに聞こうとせず自分のペースで実行した。自分の計画した通り、思い描いたとおりに事が進めば問題はないが、なかなかそうはいかない。そんな時、不機嫌な彼を引き止め、とことん話をした。そんな私に「お母さんは根気強くようやるわ」と半分呆れたように彼は言った。ひとつ屋根の下で共に暮らしている者同士だからこそ、まあいいやという中途半端なところで、わかったつもりの関係は嫌であった。

 昨年末、思いもかけないことが起こった。スタミナいっぱいの夫が、クモ膜下出血で倒れた。地元の病院から町の大きな病院へ搬送され緊急手術を受けた。それぞれの方の適切な判断と処置により、大事には至らなかった。後になって、担当の医師や看護師から話を聞き、どれほど大変なことだったかがわかった時、驚きと共に怖いことだったと知った。考えてみるとあの頃は忙しすぎた。たびたび遠方での会議に車で往復していた。雪かきも、そこまでやらなくてもいいのにというくらい徹底的にやり、よけい体を酷使した。何かしらイラついていることが多く、怒りっぽいように思えた。私は気になりながらも、どうせ聞いてもよけいに不機嫌にさせるだけだろうと思い一歩踏み込んで聞こうとはしなかった。それはいかにも相手のことを考えているようにみえるが、実は不穏な状況になるようなことにはあまり深く関わらないでおこうという私の逃げだったように思う。そのことに気づいたのは、夫が退院し、普通の生活ができるようになってからであった。

 幼い子は、いつも後先考えず本音でぶつかってくる。そんな幼い子を精一杯受け止めようとして悩み苦しんでいる若い夫婦。そんな日々の生活の繰り返しの中で親子関係がつくられ、夫婦関係もいっしょにできていくのだろう。私たち夫婦もかつてはそのように歩んだはずなのに、いつからか夫婦だからわかってくれるはず、と当たり前に考えてしまっていたのでは、と若い夫婦のやりとりから気づかされる。これでいいのかな、こんな関わりでいいのかなと心の中がいつもモヤモヤしていた私。本当に伝えたいこと、わかってほしい大切なことは逃げないで、怖がらないで、今その時に私の言葉ではっきりと言おうと思う。泣いたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだりの家族の中で、歩んできた道とこれから歩む道をいつも感じながら生活していこうと思う。


戻る

Copyright(c) 2004−2007 HigashiHonganji ShinsyuKaikan All right reserved
(このホームページの記事・画像の無断転載を禁じます)
.