あでやかな和服姿の舞台とは違って、素顔の香西さんは下町の気さくなお姉さんという感じだ。大阪の下町を舞台にした人気漫画「じゃりんこチエ」さながらの少女時代が目に浮かぶ。
「下町のよさって人情味だといわれるけど、住環境に非常に影響されることがあると思うんですね。隣りが近いから夫婦喧嘩の声や、子どもが叱られている泣き声だって聞こえてくる。昔は近所中で子どもたちを育てるみたいなところがありましたね。近所のおばさんに叱られたり、ひどいときは水をかけられたり、ホウキをもって追いかけられたり。長屋型式の家並がどんどん少なくなって、今は人と人とのつながりがずいぶん希薄になったような感じですね」
ひょんなことから町の民謡教室に通うようになって歌の才能が開花した。22歳で上京し、2年後『雨酒場』でデビュー、いきなり新人賞を受賞した。演歌だけではない。思わぬ出会いがあり、新しい歌が生まれた。レコード大賞を受賞した『無言坂』は、久世光彦作詞・玉置浩二作曲の歌だ。
「『無言坂』が発売になったとき、まわりから香西かおりはどこへ行くのと言われました。でも、音楽というのは時代の流れと一緒にあるものですね。昔は歌手が演歌でもジャズでも歌っていました。ひばりさんや江利チエミさんが横文字の歌を歌っても不自然ではなかった。今は演歌という枠がつくられてしまっていて、その中でしか動けないような勘違いが多分にあると思うんです。私は出会いを大切にしていろんな可能性を試してみたいですね」
町が変わり、暮らしが変わり、人と人とのつながりが希薄になってきた。家族でさえ。携帯やゲーム機からは乾いた電子音ばかりが聞こえてくる。だから人の心に潤いがほしい。香西さんは歌う。「誰かいて欲しい/背中抱いて欲しい/人はなぜ生まれ/どこへ流れるの/こんな夕暮れ/あゝ人恋し」(『あゝ人恋し』)。
「地球もそうですが、人の心も砂漠化されて涸れてきているような感じがします。街に音楽が聞こえなくなってきたでしょう。昔はお買い物で外を歩いていると町内放送があったり、パチンコ屋では演歌が流れ、食事に行けば有線で流行歌が流れていました。今は街に音楽がどんどんなくなって、発信音ばかり。子どもたちの遊びもピコピコだし、パチンコ屋に行ったって出玉のうるさい音ばかり。みんなが一緒に聴く歌がなくなって、話題も個々になって、どんどんつながりが希薄になっているような感じがします。昔はちゃぶ台を囲んでみんなで食事をしたけれども、今は子どもは塾に行かなければならないし、クラブ活動もある。お父さんもお母さんも働かないと生活がきつい。たいした動機でもないのに、残忍な事件が起こっています。隣のおうちは仲よさそうでしたよと言いながら、いろいろな事件が起こります。何が起こってもおかしくない状況でしょう。私は歌が大好きです。歌を通して一緒に共感できる世界が広がっていったらいいですね。

香西かおり 最新曲『秋田ポンポン節』
好評発売中
2007年8月22日 発売
CD/カセット/\1,100(税込)
こうざい・かおり
1963年大阪生まれ。11才のころから民謡教室に通う。88年『雨酒場』でデビュー、日本レコード大賞新人賞、全日本有線放送大賞新人賞。92年、『花挽歌』で日本歌謡大賞、93年、『無言坂』で日本レコード大賞の「大賞」を受賞。今年デビュー20周年を迎え、記念シングル『き・ず・な』、『香西かおり20周年記念シングルコレクション』を発表。『流恋草』『最北航路』等、数多くのヒット曲がある。