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インタビュー
 高橋哲哉さんに聞く
 平和と平等をあきらめない
写真イメージ
 この国はどこへゆこうとしているのか。戦後民主主義と平和主義というメッキがはがれて、この国の「地金」が剥き出しになってきた、と高橋さんは言う。
その強固な「地金」こそ、高橋さんが問題視する対象である。
教育基本法や憲法を改正する動きがうねりのようになってきた。
高橋さんはそこに「戦争ができる国づくり」をもくろむ国家の意図を読みとる。
ポスト団塊世代の論客の第一人者である。


 学校教育の現場では疲労感が蔓延しているという。子どもも教員も「ゆとり」を奪われ、疲弊し、悲鳴をあげているというのだ。

 「英語で、〈学校〉を意味するスクールという語の語源は、余暇、余裕、ゆとりを意味するスコレーというギリシャ語なんですね。都市国家アテネの市民に生活にゆとりができ、ものを考える余裕が生まれることによって哲学が成立していくわけです。ですから、余裕とか自由のないところに、知的好奇心が発揮される本当の学びというものはありえないのですね。

 ところが、いま学校では、そういうスコレーがまったく存在しない。先生も忙しい。子どもたちに向き合うよりも、職員室でパソコンに向き合って書類を作るのに精一杯です。進学競争がどんどん低年齢化して、いまや幼稚園のお受験もある。子どもが競争しているということは親が競争しているわけです。学校で勝ち組にならなければ淘汰されてしまう。競争原理が支配し、ゆとりが失われる中で、教育の基本が破壊されつつあるような感じがします。」

 入学式や卒業式での国旗・国歌の強制。そして教育基本法の改正が行われようとしている。その先には憲法の改正がある。高橋さんはそこに政治の、ある意図を読みとる。

 「戦後教育を支えてきた教育基本法。私はこの法律が完璧だとは思いませんが、民主主義と平和主義の価値観に貫かれた日本国憲法と不可分の関係にあります。憲法第9条を改正して、日本をもう一度戦争のできる国にしていくことを目的にしたときに、それを支える国民の精神をつくっていく必要がある。そのための教育基本法の改正なんです。いわゆる愛国心教育が教育の現場で始まっています。

 愛国心というのはもともとパトリオティズムといって、パトリアというのは自分の生まれ育ったところという意味で、近代的な国民国家の前からある概念です。私はパトリオティズム自体が悪いものだとは思わない。愛国心もそれこそ心の自由であって、その人の中でおのずと生まれてくるようなものであれば、それは自由なんです。ところが、いま問題になっている愛国心はそうではなく、ある政治的な意図のもとに法律をつくって、それを子どもたちに、ひいては国民に強制しようということなのです。

 日本の場合、明治政府が欧米に追いつけ追い越せということで、急いで近代国家をつくり上げようとしました。そのため政府主導で国民道徳として愛国心を教えてわけですね。教育勅語が教育のバイブルでした。夫婦仲良くしなさいとか、親を敬いなさいとか、いい面もあるじゃないかといまでも言う人がいますが、そういうかつての愛国心教育の極限にあるのが靖国思想であり、最終的には天皇と国家のためにいざとなったら命を捨てて尽くしなさいというメッセージに収斂していきます。そのことを十分に注意して見ていかなければなりません」


ちくま書房


たかはし・てつや
1956年福島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。選考は哲学。二十世紀西洋哲学を研究し、哲学者として政治・社会・歴史の諸問題を論究。NPO「前夜」共同代表として、雑誌『前夜』を創刊。著書に『デリダ』『戦後責任論』『記憶のエチカ』『歴史/修正主義』『逆光のロゴス』『証言のポリティクス』『「心」と戦争』『反・哲学入門』『教育と国家』『靖国問題』などがある。



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