昨年、『夜回り先生』という本が出てから、12万5千件の相談メールが寄せられたという。「先生、わたし生きてていいの?」「死にたい」「これからリスカします」「さっきいっぱいクスリのみました」学校や親から追いつめられ、昼の世界から自分の部屋に逃げ込み、夜眠れなくなってしまった子どもたちの悲鳴……。
「非行の子どもとひきこもりの子どもは、見た目の違いこそあれ、根本は変わらないんです。どちらも大人の正当な評価を得られず、昼の世界からはじき出され、行き場をなくした子どもたちです。そうしたリストカットや心の病は、90年代初頭から異常に増えました。ちょうどバブルがはじけた年です。明日が見えない。日本人はもうイライラの極致です。
お父さんが会社に行けば、『何やっているんだ』と怒鳴られる。そのお父さんが家庭ではお母さんを怒鳴り、怒鳴られたお母さんは子どもにあたる。この10年、幼児虐待が増えてきました。子どもたちがどんどん攻撃を受けてきています。大人たちは弱い者にあたったり、酒を飲みに行ったりできるけど、子どもはできない。また、学校教育も管理主義になって、非常にちまちまし始めました。学校でも息がつまる。
そんな状況の中で、子どもたちは三つに分かれていきます。大多数の子は、子ども社会で大人になってイジメをやる。自分の鬱憤をより弱い子に対して晴らしていく。そして元気のいい子は、もう昼の世界はいいやって、夜の世界に行く。しかし、夜の世界の人間からみたら、子どもたちは食い物です。女の子は体をねらわれ、薬漬けにして売られる。男の子はパシリに使われる。じゃあ、三番目の子はというと、結局は自分を責めるんです。親に叱られたのも自分が悪いから。勉強ができないのも自分が悪いから。友だちとケンカしたのも自分が悪いから。それで心がいっぱいになりますから、夜は眠れません。そんな中でリストカットしてしまったり、自殺を考えたり、OD(処方薬の過剰摂取)をやったりしてしまうんです。
ゆうべも今朝までメールの返事をしていました。『死にたい』『水谷は哀しいです』『なんで先生が哀しいの』『お前が大切な人だから』『人のために何かしてみな。返ってくる笑顔が生きる力になる。水谷はそうしてるよ』『お父さんの靴磨いた。そうしたらお父さん、昨日ケーキを買ってくれた』それで生き返る子がいます。ほんのひと言でいい。身近にいる子どもに愛のある優しい言葉をかけてあげてほしい。そしてほめてあげてほしい。
ぼくはただの一人も子どもを救ったことはないんです。ぼくのやっていることは、相談にきた子の側にいることなんです。歩きだすのは子どもたち自身なんです」
サンクチュアリ出版
みずたに・おさむ
1956年横浜生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。教師生活のほとんどを少年の非行・薬物問題に捧げ、「夜回り」と呼ばれる深夜パトロールを行いながら、若者の更生に尽力。2004年9月、高校教諭を辞職。現在は日本各地での講演を通して、少年非行の実態を広く社会に訴えている。第17回東京弁護士会人権賞受賞。主な著書に『夜回り先生』『さらば、哀しみの青春』『ドラッグなんていらない』『さよならが、いえなくて』『夜回り先生と眠れない子どもたち』『夜回り先生の卒業証書』など。