徳島で純情可憐に育った。小学校低学年までは五右衛門風呂で、高校生になるまで洋式トイレを知らなかった。初めて知ったのが東京への修学旅行の説明で、学年主任が黒板に「洋式トイレの使い方」を図解して教えてくれたときだった。慣れるまで腰を便座から浮かして用を足した。そんなサイモンさんは実にいい。『東京ラブストーリー』はドラマ化され、トレンド文化を一気に浸透させた。その一方でミーハーぶりや家族のドタバタをもらしてくれるのだ。
「私は徳島の狭い世界で、世の中のこともわからずに、すごく幸せな少女時代を過ごしたなと思うんです。バブルのころから急速に生活が変わりましたね。それまでは昭和の生活、昔の日本人の生活が残っていました。マンションなんか特にそうですが、今は家に畳の部屋がなくなりました。トイレと洗面所が一体になっている。小学校ではしゃがんでトイレできない女の子も多い。学校でウンチできない。不潔恐怖症で、他人と接触するのがいやで吊り革も持てないとか、手を何度も洗っちゃうとか。都会の子は虫だっていやなんですね。私たちが子どものころは、庭の草取りさせられて虫もいっぱいいました。子どもイコール泥んこというイメージだったのにね」
暮らしている練馬区の石神井はどこか徳島と似ていて好きだという。土の匂いがする。二人の子も成長し、サイモンさんの子育ても終わりつつある。「適当に無責任で、あんまり子どもに期待していない母親のほうが好き」と若いときエッセーで書いていた。
「息子はインターネットの世代ですが、ずいぶん違うものが育っているなと思います。実際に会って話すと、言葉以上の空気といいますか、今はこういうことを言ってはいけないんだとか、この人怒っているな、喜んでいるなということが肌でわかるんですが、ネットやチャットでの言葉のやり取りというのは、それがわからないわけですね。言ったほうはさりげない言葉でも、傷ついたほうは一生残る。画面上の言葉をプリントアウトして残しておけば、その人はずうっとそれを持ち続ける。見ず知らずの人に恨みを持ち続けるのです。一番怖いのは人の心です。
今はメディアで何でも見せる時代なんですね。不安も煽るし、リッチで物質に囲まれた豊かな生活も見せる。過剰に見せられたものがそのまま世界だと思ってしまう。親は不安です。狭い視野で親世代が子どもに関わる。道に外れないためにガチガチになってしまう。でも、普通に生きていれば、そんなにひどい目にも会わないし、リッチな生活でなくてもいいんだということを親が思えれば、許容範囲も広がって、ちょっとずれた子どもでも『それでいいよ』と抱きしめてやることができるんじゃないかと思うんですね」
さいもん・ふみ
◆漫画家◆
1957年、徳島県生まれ。お茶の水女子大学卒。在学中より漫画家・弘兼憲史氏のアシスタントをつとめ、79年に『少年マガジン増刊号』で漫画家デビュー。主な作品に『同・級・生』『女ともだち』『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『新・同棲時代』など多数。エッセー集も多く、『愛こそがすべて』『恋愛論』『幸福論』『オシャベリな目玉焼』など。現在、『ビッグコミック』誌に『小早川伸木の恋』を連載中。