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 辻 信一さんに聞く
 ないものねだりから「あるもの探し」へ
写真イメージ
 ナマケモノという動物に魅了され、「ナマケモノ倶楽部」というNGOを立ち上げた。「怠惰で鈍重」と蔑まれてきた
この動物が、低エネ、循環型、共生、非暴力平和のライフスタイルを教えてくれるという。
「100万人のキャンドルナイト」も、そうした発想から生まれた。夏至や冬至に、
電気をナマケルことで闇を取り戻し、ローソクの灯を囲み、食べ、語る。これ以上の快楽はない、と言う。


【100万のキャンドルナイト】

辻信一、立松和平らが夏至や冬至に「でんきを消して、スローな夜を」と呼びかける。
http://www.candle-night.org/
 ゆっくりは美しい、辻さんの「スローライフ」を一言で表現するとそうなる。キーワードは身の回りにある。食べる、歩く、遊ぶ、待つ、愛する等々。それは文化というものに特有の〈遅さ〉を取り戻す試みである。

 「共食ということが文化の根幹なんです。誰と一緒に食べるか、いつどんなふうにして食べるか。昔は同じ食べ物を仏壇に供えたり神棚に供えたりすることで、この場にいない過去の人たちともつながっていた。またそうすることで、ぼくたちが会うこともない未来の世代ともどこかでつながっている。ファストフードというのは、そのつながりを断つことですね。待ちきれないのです。食べるということに時間をかけるのは無駄と感じているのです。

 数年前に始めたキャンドルナイトも大きなうねりになってきています。どんな思いからでもいいんです。ただ電気を消して、真っ暗な中にいてもいいし、ローソクを灯して家族と食事をしてもいい。ローソクの明かりで子どもに絵本を読んであげるのもいい。蛍を見に出かけるのもいい。これまで電気を煌々と照らすことが文化の豊かさだと思いこんできた。テレビを消し、電気を消してローソクを灯す。それは決して禁欲的な発想じゃない。スローな時間に身を浸す喜びがそこに広がるんです」

 経済成長は「ないものねだり」という無限欲求に支えられていた。そのあげく人と人とのつながりが失われ、環境が破壊された。本当に豊かになったのか。辻さんは「あるもの探し」という逆転の発想で「今、ここ」を取り戻そうと呼びかける。

 「発展、開発、成長という言葉はかなりいかがわしい言葉です。例えば、地方のある町が発展するために、これまでは、まず「何がないか」を見つければいいと思われていた。水洗トイレがない、舗装道路がない、高速道路がない。ないものを探し、それを手に入れようと努力する。今ここを否定することが、経済成長なり発展なりの原動力になっていく。でもこれは20世紀、もう過去の物語なんです。

 岩手県に葛巻という村があります。北上山地の冷涼地で日本で一番電気が入るのが遅かったそういう場所です。「なにもない山村」で〈あるもの探し〉をやった。まずあったのは大正時代から使われてきた水車が3台。次に雑穀や蕎麦。米があまりとれない冷涼地であればこその特産物です。そして元気なおばちゃん、おばあちゃんたちです。この3つの要素を組み合わせてできたのが「森のそば屋」です。水車を動力として挽き、女性たちが打った蕎麦を雑穀ご飯や囲炉裏で焼いたイワナと合わせて出す。今では行列ができるほど評判になっています。

 スローライフというのは、今ここの自分を、そしてつながりや愛を取り戻すことなんです」


つじ・しんいち
◆文化人類学者(環境運動家)◆
1952年、東京に生まれる。明治学院大学国際学部教授。99年、環境=文化NGO「ナマケモノ倶楽部」(http://www.sloth.gr.jp/)を設立、その世話人を務める。「スロー」「カフェスロー」「スローウォーター・カフェ」「ゆっくり堂」などの会社設立に参画、環境共生型ビジネスに取り組む。主な著書に『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社)、『ピースローソク―辻信一対話集―』(ゆっくり堂)、『スローライフ100のキーワード』(弘文堂)。新刊は『スロー快楽主義宣言!』(集英社)。


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