広報紙『サンガ』
TOP > 広報紙『サンガ』 > バックナンバー > インタビュー
バックナンバー
インタビュー

 江林智施さんに聞く

 演劇に魅せられて生きる前進座『蓮如─われ深き淵より─』で好演
 お芝居を演ずることは自分が豊かになること
江林智施さん
 舞台に立つことが小さいころからの夢だった。夢が現実に。前進座に入って10年。同時に、芝居のきびしさ、難しさをいよいよ痛感する。
 地方巡業の旅。大道具、小道具、照明の機材をみんなで運び舞台を創る。幕が開く。舞台で生のお客と接する。それが好きだという。客によって役者は変わる。一瞬、舞台の上で奇跡が起こることがある。至福の時間。それが芝居のたまらない魅力だ。
 3年間、263回の上演を重ねた『蓮如(れんにょ)─われ深き淵より─』がこの12月に最終公演を迎える。江林さんはミツ役で出演する。
 小学校にあがるまでは東京に住んでいた。父はサラリーマン、母は踊りのお師匠(ししょう)さんだった。母は父と結婚する前、劇団に入ったこともあった。父の兄が急死して大分の寺を継ぐことになり、環境が一変した。小さいころ、母の昔話をよく聞いた。東京への思いが募(つの)る。小学校のころから漠然(ばくぜん)と女優になるのだと思っていた。短大で演劇を専攻し、卒業と同時に前進座に入座した。
「どちらかというと新劇の方が好きだったのですが、いろんなお芝居を勉強する前に、まず日本の古典をしっかり学ぼうと思って前進座を選んだんです」

 前進座は歌舞伎から現代劇まで幅広い演劇活動を行っている。入座してまもなくミュージカル「とびだすエンピツ」でいきなり主役のサクラに抜擢(ばってき)された。9歳の女の子の役だった。この10年、いろんな役をやった。やればやるほど演劇の奥の深さに驚かされる。

「60、70になってやっと何かがつかめたかなという世界ですね。舞台に立って役になりきるということが、こんなに難しいことなのかということを感じます。

 劇団に、いまむらいづみさんという大先輩がいるんです。『蓮如』のセゾン劇場公演では、妻の蓮祐(れんゆう)を演じた方ですが、そのいづみさんが子どもを演じると本当に子どもに見えるんですね。私がサクラちゃんをやると、子どもを演じているようにしか見えないんですよ。経験と技術の差ですね。いづみさんに言われたんですけど、キャリアを積んだら、役によって声のトーンを使い分けなさいって。年を取ってもそういったいろんな役を演じることのできる役者になりたいなと思います」

 『蓮如』に出演することになって、つくづくご縁というものを感じたという。寺の娘として生きてきた自分を見つめるいい機会となった。寺にはいろんな人が相談に来る。さまざまな職業の人々、泣き叫ぶ人、よく笑う人、父や母はそんな人たちの話をじいっと聞いていた。気がつくと自分もいつも聞き役になっていることが多かった。

「舞台でお芝居をする時には喜怒哀楽(きどあいらく)をはっきりと表現しなければなりません。先輩に、君はもっと自分の気持ちを外に出す訓練をした方がいい、と言われました。
 蓮如さんの劇のミツという役をとおして、あの時代の女性の苦しみを考えさせられました。ミツは、一度死ななければ仏さまになれないのか、お浄土に行けないのか、と蓮如さんに詰問(きつもん)するんです。今の私たちには想像もつかない女性蔑視(べっし)の時代だったと思うんですけど、その気持ちをどう感じ取ったらいいのか悩みました。

 相手をいたわったり、いつくしんだりということが昔は今よりあったと思うんですね。今、本当はみんな淋しくて、家族の中にいろいろ不安があったりとか、会社や友だちの間でもめごとがあったりとか、どこかでみんな依りどころを求めているのではないでしょうか。時代は違いますけど、ミツの心に通じるものが現代にもあると思うんですね。蓮如さんが生きていたら、どう答えてくれるでしょうか」

 スポーツウーマンでもある。中学生のころは剣道、今はスキューバ・ダイビングが楽しいという。

「友人のカメラマンに勧(すす)められたんです。潜(もぐ)ってみると本当にきれいなんです。お魚はもちろんですが、海の中は森のように草が生えていて、花のようなサンゴがあってと、驚くことばかりです」

 好奇心にみちた江林さんの目が輝く。独身。演劇をとおして人間の未知なる光と闇を探求する旅がまだまだ続きそうだ。


えばやしちせ
女優
1967年、東京都生まれ。6歳から大分市で育つ。大分舞鶴高等学校卒業後、桐朋学園大学芸術科演劇専攻。89年、前進座入座。「とびだすエンピツ」の北川サクラ役を主演。「五重塔」「青べか物語」「終わりに見た街」「怒る富士」「月夜のサンタマリア」「左の腕」「戦国武士の有給休暇」「夜明け前」等に出演。95年より「蓮如─われ深き淵より─」にミツ役で出演している。


戻る


Copyright(c) 2004−2007 HigashiHonganji ShinsyuKaikan All right reserved
(このホームページの記事・画像の無断転載を禁じます)