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インタビュー
 田代俊孝さんに聞く
 死を見つめることは生をより充実させること

 大学生のとき、はじめて入寺先の寺で野辺送りをまのあたりにした。棺を朱色の轅(ながえ)に乗せ、親類縁者が列をなして村のはずれの墓地へ行った。藁や薪を積みあげ、喪主が火を付けて荼毘(だび)に付す。
 つい昨日まで元気だった同い年の隣家の青年が、いま、自分の目の前で白い煙になっている。ショックだった。人ごとではないと思った。あす自分がそうなっていても少しも不思議ではない。今生きている自分の命とは何か。生きる意味を問わずにおれなかった。
 その課題をもって仏教を学んだ。死をタブーにし、いのちの重みを忘れた現代人に、田代さんは今こそ、死を見つめ生を問う「いのちの教育」(デス・エデュケーション)を、と提唱する。。

 「ウソのようなホントの話ですが、あるお子さんがデパートでカブトムシを買って、そのカブトムシをなぶっている間に死んでしまったんです。そうしたらお母さんに『お母さん、電池が切れたよ』と言ったというんです。生命に対する尊さが見失われているんですね。

 ガンの手術をされた方が、手術をする前は台所にゴキブリが出てくると思わずスリッパをふりあげてたたき殺していたけれども、手術をして死ぬほどの目にあった後は、反射的にスリッパをふりあげたが、もう降ろせなかったということを話されたことがあるんです。

 死を見つめることは、いのちの尊さに気づかせてもらうことなんですね。死は生の母なんです。生だけを見ていても、生はわからないのです。死を見つめ、いのちにめざめた人の人生は輝いています。それまで気にもとめなかったものに感動を覚え、その尊さに目覚めておられる。私はそんな人たちに多く出会いました。ガンの手術のあと、ある人は『今の一瞬一瞬が大切です。文字一つ、物事一つが味わい深く感じられます』とおっしやっておられました。

 老いや死に挑戦するとか、勝つという人がいますが、勝つことができるでしょうか。人はだれしも、必ず老いて死にます。挑戦するとか勝つという発想をするかぎり、老いや死はその人にとって敗北になります。そうではなく、いかに受容するかということでなければ、安らかな死にはならないと思います。何も、上手な死に方をするということではありません。痛いときは痛いといい、苦しいときは苦しいといって、ありのままに死ねばいいではないか。そう腹がすわったとき、結果的に安らげるのです」

 医師や看護婦、福祉関係者、宗教者、高齢者、癌の息者やその家族たちと始めた「死そして生を考える研究会」は、当初の予想を越えて、大きな反響があった。同朋大学(名古屋)という小さな大学から全国に輪が広がり、10年目の今、アメリカやブラジルにもこの研究会の影響を受けた仏教ホスピス(ビハーラ)が試みられているという。悲しみや苦悩を共有する場が開かれ、同じ体験をした人がそこにいるということが、どれだけ心の支えになるか、田代さんは教えられたという。

 脳死を人の死とする(臓器移植の場合のみ)法案が成立したが、田代さんは先端医療の場でいのちがモノ化されていくことへの危険を訴える。

「脳死になる人は交通事故とかで突然なるんですね。家族へ精神的な支えなしに、脳死だから移植をといっても、家族は受け入れられないですね。脳死と植物状態にある人との違いをどれだけの人が知っているでしょうか。また、移植医療は、圧倒的にドナー(提供者)不足になります。そうすると順位を決めなければならない。人の選別です。そして臓器売買も行われるでしょう。異種間移植、豚に人の遺伝子を投与して人と同じ血液型をもった豚を作るとか、そんな実験も行われているのです。そこまで自然を逸脱していいのかと思います」


死そして生を考える研究会(ビハーラ研究会)
 1988年、医師・看護婦・宗教者・福祉関係者・高齢者・癌患者やその家族たちで拮成。
 タブーにしがちな死を正面から見つめ、死に応えうる生にめざめることを目的としている。「ビハーラ」・「いのちの教育」の研究・実践・啓発活動を行っている。1990年からは名古屋東別院会館と共同で同会館内に「老いと病のための心の相談室」を設置。現在、会員600名。
事務局:〒453名古屋市中村区稲葉地町7-1同朋大学内 田代研究室
電話:052-411-1111(内線352)

たしろ しゅんこう
死そして生を考える研究会
1952年、滋賀県生まれ。大谷大学大学院博士課程修了。同朋大学助教授、カリフォルニア州立大学客員研究員を経て、現在、同朋大学教授。名古屋大学医学部倫理委員。真宗大谷派行順寺住職。著書『広い世界を求めて』『悲しみからの仏教入門』他多数。


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