
前号で携帯電話の自己紹介サイト・プロフを例にネット社会が強く誘惑してくる自己開示欲について触れた。その自己開示欲にじかにからんでいる重要な要素がある。匿名性である。自己開示はしたいけれど自分の名前や身元を知られることはいやだ。
ネットはこのような葛藤をあっさり解消してくれる。自己開示欲を満たしながら、自己開示することのリスクをあらかじめ排除できるのだ。それが匿名である。匿名にすることによって、人は安心して、自己開示の欲望を存分に満たすことができる。
その反面、人への悪意の表出欲や攻撃欲までが匿名の仮面をかぶれば、おおっぴらに開示することも可能になる。匿名の卑劣さ、暴力性--昔、偉大な哲学者が心の底から嫌悪した「弱者の怨恨」がネット上のいたるところで噴出してくるのだ。
《大阪府警南署は、私立中学に通う女子生徒
(13)に対する匿名の中傷を放置した掲示板の管理人(男性26)を名誉毀損幇助の疑いで書類送検した。同時に、実名、学年まであげ「ブス」「死ね」「ダサい」「あいつの顔見たくない」などと書き込みをした少女(13)も侮辱罪の容疑で調べるとともに児童相談所に通告した。警察の調べに少女は「うざいと思ってやった」と述べた》。(日刊スポーツ2007年4月28日)
中傷の書き込みに気づいた学校がすぐに削除を求めたが、管理人は無視。中傷された生徒は友人から知らされ、確認後に母親とともに被害を警察へ届け出たのだった。悪口を書かれた少女と書いた少女とのかかわりは、小学校時代に受験勉強のための同じ塾に通っていたということだけであった。
書類送検された男は、ライブドアが運営するレンタル掲示板サービス「したらば」の中に、頭に学校名を冠した「○○ちゃんねる」(学校掲示板)を複数、開設、管理していた。すなわち通称学校裏サイト。学校裏サイトとは、学校の公式サイトとは別に生徒や第三者がネット上に独自に開き、学校情報を交換する場。学校裏サイトは、2004年頃から目立ち始め、いまは1万以上あるとみられている。多くが匿名で書き込めるため、特定の生徒の個人情報、悪口や中傷が横行しているという。
こうした増殖に学校レベルでは対応不可能とみなしたネット関連企業ガイアックスが学校裏サイトの発見・監視サービスを始めた、この報道を読んだのは、去年もかなり押し詰まった時であった(日刊スポーツ2007年11月24日)。