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人輝くとき

 アルネとハリー
児童文学評論家・翻訳家  清水真砂子 サンガ第77号 <2005年9月>

 スウェーデンの北部、北極圏に近いヘイという村に、アルネとハリーという夫婦が暮らしている。アルネは今年85歳にある。ハリーは三つ下の82歳。ふたりは森で出会った。アルネは森の仲間と木を切りに盛りに入っていた。1ヶ月かそれ以上も続く作業だ。そこに炊事係としてやってきたのがハリーだった。ふたりは愛し合って結婚し、娘が生まれた。成長した娘は村を出て、遠くの町でさらに学んで、専門職につき、結婚して、娘が生まれた。

 10年程前、アルネの従弟にあたる友人に連れられて、初めてこの夫婦の家を訪ねたとき、ハリーはふと、台所のテーブルに飾ってあった孫娘の写真を指して、「いい子でしょ」と誇らしげに言った。あきらかにダウン症とわかる10代の女の子の写真だった。この一言で私たちはハリーとアルネへの信頼を厚くした。ふたりの家はきちんと片付いていて、清潔だった。室内の調度に、そしてテーブル・セッティングに、スウェーデン文化の香りが匂い立っていた。

 昼食の後アルネは私たちを敷地のはずれに建つ納屋に誘った。横長の大きな建物である。戸口から一歩足を踏み入れた私たちは目を見張った。納屋は暮らしの博物館だった。この100年余、先祖から受け継ぎ、使い続けてきた木こり仕事の道具に農機具、スキー、そして古いアイロンをはじめとする生活用具がきれいに手入れされて、並べられていた。見学者をあてにしてのものではない。ふたりはだたそうするのが当たりまえだからやっている、というふうに見えた。

 2004年夏、アルネが末期癌だと聞いた私たちはふたりを見舞うつもりでヘイを訪ねた。ところが元気づけられたのは私たちのほうだった。アルネはモルヒネで痛みを押さえながら、よく来た、と満面に笑みを浮かべてバーベキューの指揮をとり、ハリーは愛らしく、そんなアルネに甘えていた。うれしいことにふたりの村でのくらしは今もまだ続いている。


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