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人輝くとき

 アムステルダムの寅さん
児童文学評論家・翻訳家  清水真砂子 サンガ第74号 <2005年3月>

 「アムステルダムの寅さん」と夫婦で勝手に呼んでいる男がいる。2004年8月の終わりのある日、ノルウェーはナルヴィックの大きなバスの発着所で出会った。使い古しの小さなトランクをさげた、背の高い、やせた男だった。11、12歳と見える子ども数人と一緒だった。その朝スウェーデン北部の村を友人夫妻に見送られて発った私たちは列車で北上、キールナを経てノルウェーに入り、まだ日の残る6時過ぎナルヴィックに到着、ホテルに荷を置いて、翌朝7時に出発するバスの乗り場の確認にでかけたのだが、男も同じ用で、町で出会った子どもたちを道案内にやってきたのだと言う。だが、求めるバスの情報は得られず、子どもたちにたずねても埒が明かない。私たちは他所でたずねようと、その場をあとにした。と、すぐうしろで、男が子どもたちに話すのが聞こえた。「あの日本人はいいぞ。信頼できる人たちだ」

 私たちは顔を見合わせて、にこっとした。が、次の瞬間恥ずかしくなった。男は用が済めば、ハイそれまで、と子どもたちを置き去りになどしなかった。まだ宿も決まっていないというのに、手助けを買って出てくれた子どもたちに礼を尽くして、用件以外の話をしている。発着所に来る途中だって、旅の話でもして聞かせていたに違いない。そうでなければ子どもがあんなにぞろぞろと楽しそうについてくるわけがない。翻って私たち夫婦はといえば、自分たちのことしか考えてはいなかった。偉いのは男のほうだった。

 運よく求めていたバスはあり、翌朝私たちは同じバスでナルヴィックを発った。男は、オリンピックににぎわうアテネを楽しんだ後、ヨーロッパのあちこちを回り、ここまで来たが寒くてかなわん、休暇ももう残りわずかだし、アムステルダムに帰るよ、と言っていた。本当に寒そうだった。お腹もすかせているようだった。休暇のたびに旅に出るというこの男と私たちはあえて住所も名前もきかずに別れた。またどこかでひょいと会えそうな気がする 。


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