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3分間法話

 「神の手」を持つ医師を支えたもの
かばしんいち
蒲信一
54回 <2001年11月>
 

「医者は医者のために存在するんじゃないでしょ?
患者さんに信頼され求められて、初めて医者として存在することができるんですよ」


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 ここに掲げた言葉は、NHK「プロジェクトX 」で取り上げられた須磨久善医師(当時湘南鎌倉総合病院・心臓外科部長)の言葉です。

 須磨医師は、東大や慶應を頂点とする日本の医学閥に疑問を感じ、腕一本で生きていくことを決意して、アメリカ・フランス・ドイツ・イタリアで腕を磨き、三千もの手術を手がけ、「神の手」を持つとまで言われました。

 彼がチャレンジしたのは、まだ日本では行われたことのない「バチスタ手術」と言われる極めて困難な手術です。重症の拡張型心筋症を患った人に施すのですが、患者さんたちは、余命を半年と宣告された、まさに命がけの人々です。日本で最初に行われたその手術は失敗し、患者は感染症で亡くなりました。その時のマスコミは、こぞって「売名行為で手術を行った」と書き立てました。

 落ち込んでいた須磨医師のもとに、亡くなった患者の妻から手紙が届きました。「この病気で苦しむ多くの人のために、この手術を続けてください」。

 この言葉に勇気を与えられ、医師生命をかけて再びバチスタ手術にチャレンジし、ついに成功します。それから今日まで、約50名の人が、須磨医師の手術で命を救われたとのことです。

 須磨医師は、当たり前のことを当たり前に表現し行動していました。その当たり前を実現する態度が、結果として医師の組織を、社会を、そして世界を大きく変えていくことになります。

 彼の生き方を決定しているのは、まさに患者さんの命そのものです。患者さんの命が語りかける真実に突き動かされて、彼の言葉と行動は、眩(まぶ)しいほどの光を放ちます。

 一般の医師とは対照的な須磨医師の生き方と言葉は、世襲という特権的な制度を自明にして、宗教者としての存在意義を見失いがちな私に、大きなヒントを投げかけているように思えてなりません。

(横須賀市・浄栄寺住職)


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