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3分間法話
  お仏の慈悲心こそ生きる大地
久万寿 俊雄
第5回 <1993年9月>
 

法身(ほっしん)の光輪(こうりん)きわもなく
(せ)の盲冥(もうみょう)をてらすなり
[親鸞]


 アルビン・トフラーという未来学者の著した『戦争と平和』の中に、第二次大戦が終わってから今まで、この地上が戦争から解放されたのは、たった三週間だけだと書かれています。紛争に至っては無数といえるでしょう。
現在で大きいのは、旧ユーゴスラビアの内戦ですが、これは第二次大戦の時に、ドイツに迎合した側が抵抗した側を密告し、摘発し、殺りくした怨念が、政治・経済の格差にからんで噴出したともいわれています。

 またこれは、戦争ではありませんが、アメリカでは何兆ドルにも及ぶ財政赤字の累積や貿易赤字などによって、国力の衰退を感じ自信を失った人々が、出口の見えない憤ふん懣まんから、日系人を襲撃しはじめています。

 その裏には、一部の政治家やジャーナリストなどが、「パールハーバーの卑劣なやり口」を引き合いに、現在の経済競争で日本がアメリカを追いこんだのも、同じ卑劣で不公正な手を使っているからだという論調で、国民の反日感情を煽あおっている影響もあるようです。

 戦争のような国家的大事件が作る傷あとは五十年・百年たっても消えることなく、何かにつけて生々しく傷口を開くものなのでしょう。

 戦争だけでなく、人間の行為のすべてが、大小さまざまな波紋となり、重なり合って私たちを揺り動かします。利己的な打算、格差、優劣感情、反抗、それらは因となり果となって、対立・闘争を人間の常態にしてしまいます。

 ある学者は、大国が衰退する原因を、今まで繁栄の基礎になっていたイデオロギーや制度が、ある時点を境にして逆に足かせに転じ、状況に応じた適応手段を妨害することになるからだと述べています。

 これは世界史の上でも、大国が没落する共通のパターンのようです。日本も自分の内に鋭く眼を向けていなければ、急速に同じ経路をたどることになるかもしれません。「ある時点を境にして、逆にブレーキになる」というのは、政治・経済だけでなく、個々の人生についても同じことがいえると思います。

 若い時には夢をふくらませ、幸福の条件をあれこれ数え上げ、それを働くエネルギーにしてきました。しかし年を取るにつれて、その条件と現実の姿との差は大きくなります。その条件に固執する限り、だんだん自分がみじめになり、失意のうちに生涯を終えることになります。自分の価値観が自分をますます不幸にしてしまうのです。老人の自殺率で、日本が欧米に比べて、ずば抜けて高いということも考えさせられます。

 生きることの意味づけ、価値観を転換しなければ、安らかに人生を全うできないのですが、自分の思索でそれを変えることは大変むずかしいことです。

 親鸞聖人が作られた「和讃(わさん)」の一節に、

 法身(ほっしん)の光輪(こうりん)きわもなく
世(せ)の盲冥(もうみょう)をてらすなり

 というお言葉があります。

 盲冥は「くらい」ことですが、ただ暗いのではなく自分の思想が「くらくしている」のです。

 仏さまの大きな願いを聞き、平等無差別の大慈悲を感じたとき、初めて社会も人生も人間の知恵が暗くし、息苦しくしていたことに気づかされます。それと同時に、どんないのちでも、すべて仏さまから念ぜられ、救いを願われているのだと感ずることによって、自他のいのちがいのちとして見え始めます。

 これは生涯続く大転換です。仏さまの慈悲心こそ、私たちの生きる大地であり、また、この人生を見る究極の視点でもあります。

(台東区・林光寺住職)


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