雑記帳
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 いのち ---夜眠れない子どもたち---
水谷 修 

 私は、14年前に横浜市の定時制高校に勤務して以来、「夜回り」という深夜の繁華街のパトロールで知り合った、様々な問題行動を起こすあるいは起こした生徒たちや勤務する定時制高校での生徒の問題行動に、生徒指導担当の教員として、一人の教員としてまた一人の人間として対応してきました。それらの問題行動は、万引き・窃盗・強盗から性非行・性犯罪、薬物乱用果ては殺人未遂まで多岐に及びました。しかし、それらの問題行動には触法行為あるいは犯罪という共通点がありました。私は、彼らを「夜眠らない子どもたち」と呼んでいます。

 彼らの更生には、まず彼ら自身がしてしまった問題行動がなぜ問題なのかを理解させ、そして犯した罪は償わせ、新たな生き方を共に生き合い、探していくという生徒指導が必要でした。根気のいる指導でしたが、彼らが明日を求め始め、昼の世界に戻る姿を見ることはこの上もない喜びであり幸せでした。決して楽な仕事ではなかったですが、楽しい仕事でした。

 しかし、4年前私ははじめて新しいタイプの問題行動を起こす一人の高校2年生の少女と関わりました。その問題行動は、リストカットとOD(オーバードーズ:処方薬を一回の処方量を超えて過剰摂取すること)でした。彼女の両親は彼女が小学生の時に離婚し、父親は再婚、母親も再婚、彼女は姉と二人祖母に預けられ育ちました。その状況の中で彼女は、姉からの暴力、学校でのいじめに小学校時代からさらされ、そして中学校時代からリストカットを始めました。それに気づいた祖母が心療内科に連れて行くと、今度は医師から処方された向精神薬を一度に数十錠も服用し、今のつらい状況から逃れようとしていました。そのような状況が何年か続き、死を考えていたそのときに私は彼女の学校で講演しました。その私の講演を聞き、私に最後の望みを託して相談してきました。私は彼女との関わりを一昨年9月に一本の番組としてテレビで放映しました。さらに、昨年の2月に一冊の本にまとめ出版しました。この番組や本は、心に様々な傷を持ち、苦しんでいる子どもたち、若者たちに、理解している、一緒に考えようとしている大人がまずは一人ここにいるよというメッセージを伝えるものでした。その結果は・・・。十六万本を超える相談メール、とぎれることのない相談の電話でした。私の「夜、眠れない子どもたち」との出会いでした。

 現在私たちの社会は、人を認め合う社会ではなく、人と人とが責め合う社会、攻撃的な社会になっています。私たち教員ですら、仲間に対して、「あいつは、何をやってるんだ」、「そんなことでどうするんだ」と責め合い、生徒たちに対しても、「こんなことをしていてどうする」、「そんな成績じゃどこにも進学できないぞ」と責め合うことが続いています。上司は部下に、部下は家庭で妻に、妻はその子どもに・・・。攻撃が下に続いてきています。でも、子どもたちはだれを攻撃して鬱憤を晴らせばいいのでしょうか。同級生を殺すことで・・・。年下の子どもを殺すことで、動物や生き物を虐待することで鬱憤を晴らせばいいのでしょうか。すでにそうしている子どもたちもいます。そのように責められ攻撃されても、私たち大人は、家庭であるいは夜の町の仲間との一杯で気をまぎらわせ、また次の日を何とか過ごしています。しかし、大人たちのように息抜きやうっぷん晴らしをお金やお酒の力を借りることでできない子どもたちはどうしているのでしょうか。

 今、この攻撃的な社会の中で、学校や家庭で日々批判され、自己肯定感や自信を失った子どもたちの中で、まだ生きる力を持っている子どもたちは、夜の町に出ます。彼らを評価せず否定する昼の世界に背を向けて、夜の町でたむろし、仲間を作り、そして非行集団や暴走族として大人たちに対峙してきます。また、昼の世界に背を向けて夜の町に出てきたけれど、大人に対抗するほどの元気のない子どもたちは、暗がりに集い夜を過ごしていきます。そんな中で、寂しさに埋もれそうな少女たちは、中高年の性の対象となり買春されています。そして、その偽りのふれあいの中に一時の救いを求め、実はさらに傷ついていきます。

 しかし、家庭や学校で傷付けられた子どもたちの中で、そのような子どもたちより遙かに多くの純粋で優しい子どもたちは、自分を責めています。「私が、悪いから責められた」、「私なんかいないほうがいいんだ」、「もうみんなに迷惑はかけれない」・・・。すべての問題を自分で抱え込み、その重圧の中で、夜眠れず、そして一人夜の暗い部屋の中で苦しみ、自分を傷付け、ODして何とか生き抜いています。私の「夜、眠れない子どもたち」との出会いでした。

 子どもたちは、大人たちからの美しいことばや優しさを待っています。それが子どもたちの明日を生きる力となります 。

◆執筆者プロフィール◆

水谷修(夜回り先生)

みずたに・おさむ
1956年横浜生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。教師生活のほとんどを少年の非行・薬物問題に捧げ、「夜回り」と呼ばれる深夜パトロールを行いながら、若者の更生に尽力。2004年9月、高校教諭を辞職。現在は日本各地での講演を通して、少年非行の実態を広く社会に訴えている。第17回東京弁護士会人権賞受賞。主な著書に『夜回り先生』『さらば、哀しみの青春』『ドラッグなんていらない』『さよならが、いえなくて』『夜回り先生と眠れない子どもたち』『夜回り先生の卒業証書』『こどもたちへ』『夜回り先生こころの授業』など多数。

 

 


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